資格をカクテル |「世界で唯一の職業」を作ることもできる!

カクテル

資格をカクテルすれば「世界で唯一の職業」を作ることもできる

野田 稔:明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授

「資格さえ取れれば大丈夫だ」と思っていませんか?(写真はイメージです)
自分に自信をつけるために取った資格に
価値を見出せなかった…

今回は、一人の女性の起業物語について書いてみたいと思います。とは言っても、ポイントは起業云々ではなく、彼女がいかに資格取得をフックとして、自分なりのストーリーを描いたのか。彼女がどのような紆余曲折で学び直しを行ったのかということです。

勉強する女性

彼女が最初に取得した資格は、NPO法人総合福祉カンセリングセンターが認定している心理カウンセラー1級でした。その資格をフックとして、彼女は現在、世界に唯一の職業を生み出したのです。彼女は自分の肩書を「非言語コミュニケーショントレーナー」としています。

彼女は父親の仕事の関係で、ドイツで生まれ、その後アメリカに渡り、計14年間、海外で生活しました。その後日本に帰国して、短大を卒業後、外資系企業に入社。家庭にも恵まれ、2004年に退社しました。

働いていた外資系企業では、なかなか自分らしさを発揮することができなかった。それで自分で何かをしようと考えたのだそうです。

まずは「自分の強みは何か」と考えました。それは「人にお節介を焼くことだ」と気がつき、何かそうした方向で仕事を考えようとしたのですが、何をやるにしても、自分に自信を持てずにいました。そこで、自信をつけるためには資格取得が一番いいと考えました。同時に、周囲から評価を得るにも資格取得が早道とも考えたのです。

そう、安易な考えです。しかし、彼女の物語はその安易さからスタートしたのです。

選んだのが前述の心理カウンセラー1級という資格でした。これは、臨床心理カウンセリングの現場で活躍できる資格だとうたわれますが、2級資格(あるいはそれと同等の心理系資格)を取得した上で、何と3日間、全6教程の養成講座を受講するだけで取得できる資格だそうです。
彼女はこの資格を取得したわけですが、その最中から、「これだけではダメだ。この資格を持っているからといって、何かができるわけではない」と気がつきました。

次に考えたのがイメージコンサルタントという資格でした。この資格を取るのは結構大変だったようです。まず4シーズン法というものを取得しました。ところがこれにも問題がありました。世界では通用しても、日本では通用しない方法だったのです。

イメージコンサルティングとはいうものの、ほとんどカラーコーディネートの世界です。「あなたの着る物などのイメージ=色を変えることによって、他人に良い印象を与えましょう」という趣旨です。中でも4シーズンでは、髪の色や目の色によって、最初に対象となる人間を四季に分けます。その四季に応じて、カラーコーディネートをしていくのです。

ところが日本人は基本的に皆、黒髪で黒い色の目ですから、全員が冬に分類されてしまいます。当然彼女自身も「冬」だと言われて、冬の人を印象よく見せるカラーコーディネートである黒と白、モノトーンにこだわり、しばらくそれで暮らしたそうですが、全然楽しくない自分がいたわけです。

「これは違う!」と。まあ、アジア人ならば誰でも思うはずです。

実践を通して、
自分が本当にやりたいことを見つける

次に、彼女はイメージコンサルティングの世界で別の師に出会い、「ミキカラーズ7プラネッツ法」という別の方法論を学びました。こちらの方法は納得感が高かったようですが、そこが本稿のポイントではないので、ここでは詳説は割愛します。

その資格をベースに様々な可能性を考えた彼女は、いろいろなところに売り込みをしました。その一つがハローワークでした。

ハローワークは、何度仕事を紹介して面接を受けてもらっても採用に至らない、いわば「求職の常連」を何とかしたいと考えていました。そこでハローワークのある担当者が、このイメージコンサルティングを活用して、そうした人たちに第一印象を変える努力をしてもらえれば、就職面接突破に効果があるのではないかと考え、彼女にセミナーを依頼してきたのです。

ところが、あろうことか彼女はその現場で、そこに集まった中高年の方の転職成功に必要なのはイメージコンサルティングの技術ではないと、一瞬にして悟ってしまったのです。

いくらカラーイメージを変えても、それだけでは求める効果は絶対に得られない。そこに入ってきた人たちの第一印象がそれを教えてくれました。皆、一様にうなだれていて、背中を丸めてとぼとぼと歩く。質問にはぼそぼそと小声で答える。とにかく第一印象が最悪だったのです。
そこで彼女はカラーコーディネートのことはそっちのけで、様々なアドバイスをしました。「背筋を伸ばせ!」「胸を張れ!」「大きな声でハキハキしゃべろう!」などです。

その悪戦苦闘を通して、彼女は気づいたのです。私がやりたかったことは「これだ!」と。そもそもそのための手段になると思って心理カウンセラー1級もイメージコンサルタントの資格も取得した。決してそのすべてが無駄になったわけではないけれども、どれもこれも、それだけでは思ったような効果は得られない。つまり、資格と現実の間にはギャップがある。

そこからが彼女の素晴らしいところでした。それでへこたれるのではなく、目的が定かになって自分なりの考えで走り始めたのです。

「私がやりたかったことは、それぞれの人たちが好印象を他人に与えられることで、人生に成功する。そのお手伝いをすることだ!」

そのためにどうすべきかをゼロから考え、「自信に満ち溢れた人になるしかない!」と思い立ったのです。

読者の皆さんの中には「ちょっと待てよ」と思っている人もいることでしょう。しかし、もう少し辛抱してこのストーリーの顛末にお付き合いください。

観察から学び、挫折から考え
自分なりの答えにたどり着く

そこで彼女は、自信を持って生きていると思しき人たちを観察し始めたのです。当時彼女は東京の表参道で暮らしていたので、自宅近くのカフェなどに座って、人間観察を始めました。最初は自分が素敵だと思う人の外見を観察し、記録しました。そこから浮き上がってきた特徴を分類して、自分でも真似をするようにしてみました。

次の段階では、素敵だと思う人の近くに座って、声を聞き、会話を聞くようにしました。内容ではなく、大切にしたのは声のトーンや言葉遣いなどです。それもまた自分で真似しました。

会話

最後に、いろいろなきっかけを作って、出会った素敵な人たちに声を掛け、知り合いになり、その人たちの趣味や興味ある領域、さらには価値観や読んでいる本、行動範囲などまで聞き出し、それもまた真似できるものは真似するようにしました。

その結果、こうしたアプローチにはあまり意味がないと気がついたのです。なぜならば、それでは単なる借り物ゲームにすぎないからです。
さて、一度彼女のストーリーから離れ、ここまでの道のりを冷静に分析してみましょう。まず、着目すべきは彼女の探求心です。本を読み、資格取得のための勉強をし、次には自分で解答を得ようとして人間観察を始めました。マーケティング調査で言えば、アンケート調査やインタビュー調査を行っているのと同じです。教科書的なキャリア開発論に照らせば、満点を得られるプロセスです。ところが、それでもなお、まだ成功していないという現実があります。話をさらに進めましょう。

彼女はいろいろと悩み、考えました。そして行き着いたのが、輝いている人たちは自分軸を皆しっかりと持っているという事実でした。その軸に合ったヘアメイクであり、カラーコーディネートを実践し、さらに言えば、趣味や価値観を皆、有しているのです。そこに見られるのは、自分を実態以上に大きく見せようとする作為ではなく、自分らしさに対する自信のようなものでした。

自分らしさをしっかりと持って生活を築いている人こそ、自信に満ち溢れ、その結果他人に与える第一印象もいいという事実でした。

このままでは「当たり前のこと」とも言える結論ですが、自分で行きついた答えには必ずその先があります。彼女は、その自分軸を強固にしているのは自己肯定感だということに思いが至ります。そこから彼女は、先端的であるポジティブ心理学を本格的に学び始めたのです。

この連鎖は、自ら学ぶということの本質に他なりません。普通の人が勉強をする場合は、基礎をまず学んで、それから応用に進み、その先で実践を積み重ねます。明らかに効果的な学び方です。

しかし、中には学ぶことがあまり好きではない、実践派の人もいます。そうした人はいきなり実践から入って、挫折しては学び、また実践するという方法を取ります。自分が信じる道について無駄を覚悟で突き進むので、真剣です。そういう人は、挫折する度に研究熱心になっていきます。まさに能動的な意味での学びなのです。

最後に自分なりの体系を築き
オンリーワンの職業で道を切り拓いた

そうして彼女が辿り着いたのが「非言語コミュニケーショントレーナー」という、多分、世界で一人だけの肩書です。言語に頼らないコミュニケーションの取り方をトレーニングすると言えばいいのだと思います。

他人の印象を決めるのに大事な要素は「言葉以外の表情や態度」、そして「声の調子や抑揚」。話の内容はほとんど第一印象には影響を与えないようです。
彼女によれば、自己肯定感が高い状態というのは、自分の頭で考え、自分の心で感じたことに従って行動し、人生を選択する力が発揮されている状態です。そうした人は、自ずと自分軸をしっかりと持っています。その軸をベースに活動や経験値が生まれ、外見や会話・声のトーンも定まってくるのです。

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ちなみに自己肯定感が高ければ、思考がポジティブで、自分の意見をしっかりと発言でき、人と比べることなく、素直に他人を認めることができ、発言も肯定的になります。

さて、それでは彼女は何を教えるのでしょうか。自己肯定感の持ち方を直接教えられるわけではありません。自分軸を他人が教えることもできません。

彼女は、先ほど言った、「言葉以外の表情や態度」「声の調子や抑揚」などをいわば矯正することで、結果として自己肯定感を上げていくことができると言います。形から入るわけです。

また、そうした非言語コミュニケーションやスタイル+カラーコーディネートを教えるだけでなく、「自己分析をして目標や夢を可視化するビジョンマップ」の作製もサポートしています。

彼女の活動について長々と書きましたが、要は資格とやりたいこと=仕事というのは、1対1の関係ではないということです。

彼女も最初は「資格さえ取れれば大丈夫だ」と思っていましたが、その考えは甘いということに身をもって気づかされました。

資格はあくまでもフックにすぎないのです。その先に、いかにして自分なりの方法論や体系を作り出していけるか、他者と差別化ができるかがカギなのです。そのことを知るのに、この事例は極端かもしれませんが、非常に有意義なものだと思いました。

(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授 野田 稔)

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