在宅医療の担い手は |専門資格者だけじゃない

まるでカフェのような、やまと診療所のオフィス(撮影:梅谷秀司)

東京・板橋区の閑静な住宅街を歩いていると、真新しい診療所が目に入る。ここは在宅医療を専門とする「やまと診療所」。中に入るとフリーアドレスのオフィスで若者がノートパソコンに向き合っている。IT企業さながらの雰囲気だ。

やまと診療所は2013年に開業し、4人の常勤医師が勤務している。特徴的なのはPA(Physician Assistant = 診療アシスタント)と呼ばれる独自の医療資格を導入していることだ。診療アシスタントは医師が診療をしている間にカルテの入力をしたり、治療器具の準備を行ったりなど医療処置の補助を担う。また患者が退院して在宅医療に移る際、介護保険サービスの利用や地域の医療従事者などとのコーディネーター的な役割も果たす。

現在やまと診療所の診療アシスタントは、育成中のスタッフも含めると20人。平均年齢は30歳だ。「人材募集への応募は続いており、直近では月平均18人の応募がある」(広報の渡部ちはる氏)。診療アシスタントになるには特別な医療スキルや専門性は不要。実際にやまと診療所で働く診療アシスタントの前職は、ペットショップ店員や不動産業など、医療分野とは無縁だった人材が少なくない。

米国では国家資格の診療アシスタント

『週刊東洋経済』6月10日号(バックナンバー)の特集は「医学部&医者 バブル人気の実情」です。

診療アシスタントは米国ではすでに国家資格として普及しており、集中治療室の点滴管理といった医療行為を行うことができる。日本では国家資格ではないが、やまと診療所は米国から発想を得て、独自に導入した経緯がある。

理由の一つは、医療行為の役割分担をする必要に迫られたことだった。やまと診療所の創業者である安井佑院長は、患者への治療のみならず生活にも目を配る「踏み込む在宅医療」を心掛けてきた。しかし、自らが週の半分を宮城県登米市にある系列診療所で勤務していたことから、自分がいなくても在宅医療を継続できる体制づくりの必要に迫られたという。他の医師に頼らずとも踏み込む在宅医療を維持するにはどうするのか。そこで出てきた発想だった。

その導入により医師の負担は軽減され、より多くの患者の診察に従事できるようになった。「医師には医師にしかできないことがある。それは専門知識を用いた診療。それ以外の患者との密なコミュニケーションまで、すべて医師が背負うことには限界がある。でも医師と診療アシスタントが役割分担をすれば、優れた在宅診療を提供できる」(安井氏)。現在、やまと診療所は板橋区を中心に診療アシスタントを活用した在宅医療を展開しており、近い将来には東京23区の全区での展開を狙っている。

厚労省の検討会でも俎上に

2013年に開業したやまと診療所の外観(撮影:梅谷秀司)

やまと診療所の取り組みは、局地的な動きにとどまらない。

日本政府は今、医療費抑制に向け、病院での入院医療から在宅医療への転換を促しており、2025年には約30万人が介護施設および在宅医療にシフトする見込みだ。そうした中、「今後は、タスクシフトやタスクシェアリングが必要になってくる」と、厚生労働省・在宅医療推進室の桑木光太郎氏は語る。タスクシフトとは、医師や看護師の仕事を部分的に他の職種に移管すること。タスクシェアリングとは、そうした仕事を複数の人数で分担することだ。

実際、看護師の領域では、医師の判断を待たずに、一定の診療の補助を行う「特定看護師」を養成する研修制度が始まっている。診療アシスタントについても、2016年秋から始まった厚生労働省の「医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が今春出した報告書に、新たな医療のあり方として「診療アシスタントの新設」が盛り込まれ、「簡単な診断や処方、外科手術の助手、術後管理等ができるようにすることを重要な選択肢として検討すべき」と提言された。

創業者の安井佑院長(撮影:梅谷秀司)

診療アシスタントの普及拡大を妨げるのが「資格の壁」だ。在宅医療に携わる人には、介護職やリハビリ職といった資格の保有者が多い。ただ、そういう人の多くは、自分が持っている資格の中でしか仕事できないと思っているという。せっかく終末期の患者に寄り添いたいと思っても、「自分の役割はここまでだ」と“資格の壁”をつくってしまう。

しかし、患者の人生に耳を傾け、未来に向けて前向きに生活を支えていくことは、本来どんな立場の人にでもできることだ。超高齢化社会に突入する日本にとって、急増する高齢者の看取りの担い手確保は、社会全体の課題である。診療アシスタントという、新しい担い手の役割が増していきそうだ。

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